新たな長期経営ビジョン「GIFT 2030」と 第4次中期経営計画がスタートする本年、CEOに就任されました。 現在の経営環境や事業課題をどのように捉えていますか。

紙パルプ業界を取り巻く環境は大きく変化しています。先進国ではペーパーレス化が進み、グラフィック用紙の消費量は減少を続けています。人口減少などの構造的な変化を受けて、欧米の大手製紙メーカーでは大西洋をまたぐ大型の事業統合をはじめとして、業界全体で急速に統廃合が進んでおり、私たちは今大きな転換期を迎えているといえるでしょう。
一見ピンチとも思える状況ですが、変化の激しい時代はチャンスが巡ってくる好機でもあります。私たちが直面しているこうした状況は過去には他の産業でも起きたことであり、その変化に対応できた企業だけが現在もあるということだと思います。
私たちKPPグループは第3次中期経営計画までの間に大きな躍進を遂げ、グループの姿は一変しました。すなわち、国内外でM&Aを実行し事業領域を地域面で拡大するとともに、提供する製品・サービス・ソリューションの面でも領域を拡大させ、グローバルな企業へと変貌を遂げました。
しかしながら不確実性が増す外部環境の中で、これまでと同じことを繰り返しているだけでは生き残っていくことはできません。現状に執着することなく、新たなステージに向けてさらに事業領域を拡張させていくことが重要であり、新たなマーケットを捉えるためには高い感度を持って情報を収集し、積極果敢に新しいことに挑戦することが大切と考えています。
当社グループは創立100年を超える歴史を持ち、世界46カ国・194都市で事業を展開しており、世界中のサプライヤーや顧客と良好な関係を築いてきました。この強みを存分に生かして業界トップクラスの地位を一層確かなものにすると同時に、新しい事業分野に挑戦しスピード感を持って事業ポートフォリオの転換、事業領域の拡大を進めていきます。

「GIFT 2030」を実現する上で最も重視していることは何ですか?

次の100年に向けた第一歩となる長期経営ビジョン「GIFT 2030」の策定にあたっては、世界中の社員、特に2030年にグループを担う世代に、「2030年の社会とはどんな社会だろうか。その時私たちはどのような会社でありたいか」と問いかけました。
寄せられた多くの回答の中で共通していたのは、各地域や各セグメントでトップクラスの会社でありたいということ、そしてそのためには果敢に新しいことに挑戦していく企業風土・文化を醸成するということでした。そこで、2030年に目指す姿を次のように定めました。

私たちは、祖業である紙の可能性を追求しつつ事業ポートフォリオの転換を進め、新たなビジネスの創出や事業領域の拡大に取り組むことで、お客様のニーズに応える高品質かつ付加価値の高い製品・サービス・ソリューションを提供し続ける、世界トップクラスのグローバル企業を目指します。

この目指す姿、ゴールを達成するために、ビジネス、ESG、ファイナンスの各領域で「事業戦略」「サステナビリティ戦略」「財務戦略」を策定し、それらを3つの柱とする「GIFT 2030」を定めました。
中でも健全な利益を生み出す強い会社を目指す上で重要視しているのが事業戦略です。既存の「紙」ビジネスの枠を超えて新たな事業展開を図るために、「事業領域の拡大」「事業ポートフォリオの転換」「グローバルシナジーの追求」「Eビジネスの拡大・DXの推進」の4つの重点施策を設定しました。これらの施策を着実に実行していくことが肝要と考えています。

その第一歩となる第4次中期経営計画(2026年3月期~2028年3月期)では、どのような成長戦略を描いていますか?

前中期経営計画期間は地政学的リスクやインフレなどの外部要因に加えて、英国事業、中国事業、パルプ事業などでの対応の遅れも重なり、最終年度の業績は期待水準に届きませんでした。これを大いに反省すべき点として、第4次中期経営計画(2026年3月期~2028年3月期)では外部環境のいかんにかかわらず年間150億円程度の営業利益を安定して出せるよう収益体質の改善を進め、最終年度には一段高い水準の200億円の営業利益を目指します。
この目標を達成するため、先に述べたとおり事業戦略では4つの重点施策を掲げています。「事業領域の拡大」では、これまで「紙」を中心に「パッケージング」「ビジュアルコミュニケーション」「リサイクリング」「フィルム」などへ事業ポートフォリオを拡大してきましたが、今後はさらに「新しい製品」「新しい顧客」「新しいビジネスモデル」を獲得し、領域の拡大を進めます。
例えば欧州のパッケージング分野では、従来は車載部品や機械部品向けパッケージングに注力していましたが、今後は他の産業分野や顧客層にも対象領域を広げていきます。一つの産業や顧客に依存し過ぎていては、ひとたびその産業や顧客が不調となればひとたまりもありません。常に新しい事業領域を探索し領域を拡大することが肝要です。そのためにグループシナジーを最大限に活用し、顧客情報や製品情報を共有しながら具体化していきます。

また地域面でも事業領域の拡大を図っていきます。これまで未進出であった地域や十分な展開ができていない地域に事業領域を広げていきます。特に米国への事業展 開は第4次中期経営計画の重要な課題です。「事業ポートフォリオの転換」では、これまでスパイサーズとアンタリスの海外2社で進めてきた「紙」から「パッケージング」「ビジュアルコミュニケーション」への事業ポートフォリオの転換をグループ全体に広げることを加速 していきます。海外2社では既存事業に新しい製品・顧客・市場・地域を補強する、いわゆるボルトオン型M&A を中心として既存のパッケージング事業やビジュアルコミュニケーション事業の拡充を進めてきました。今後はこれをさらに加速させます。また国内でもビジュアルコミュニケーションやパッケージング分野への積極投資を行い、 事業ポートフォリオの転換を図ります。こうした施策を実現するためには「グローバルシナジーの追求」が欠かせません。前中期経営計画期間でファ イナンスやコンプライアンスの分野でのシナジーの獲得が進みました。特に内部統制や監査体制の整備によりグループ全体の経営実態を適切に把握する仕組みを構築しました。今中期経営計画期間では購買・製品・顧客・マーケティングといったビジネス分野でのグループシナジー創出を重要施策と位置付けています。このためグループ全体を牽引する体制として、2025年8月に2つの組織を新設しました。グループ全体の購買と製品情報の共有を目的とした「グループ購買・商品本部」と、顧客情報の共有・新規顧客獲得の相互支援・最適な販売戦略の策定を担う「グループマーケティング・ セールスインフォメーション室」です。当社の事業地域統括会社である国際紙パルプ商事、スパイサーズ、アンタリスはいずれも長い歴史を有し、地域特性に合わせた製品・サービスを展開することで確固たる事業基盤を築いてきました。それぞれが地域でトップクラスのマーチャントであり、協働によるシナジー効果は大きなものがあると期待しています。既存事業でのシェアを確保しつつ、グループ内で互いのビジネスモデルを共有・展開することで新しい事業領域を獲得し、さらなる成長を目指します。

最後に「Eビジネスの拡大・DXの推進」です。海外2 社ではウェブショップを通じたEビジネスの展開が進んでおり、顧客がインターネットを通じて商品を購入する割合が年々増えてきています。今後はグループ全体でEビジネスを拡大し、お客さまと私たち双方の業務の効率化と顧客層の拡大を進めていく方針です。さらにAIをはじめとするデジタル技術を活用し、業務効率化のみならずビジネス全体の再設計を行い、付加価値を創出していきます。これら4つの重点施策はすでに取り組みを始めており、私たちは限られた時間の中でスピード感を持って変革を成し遂げていく所存です。

変革を実行する組織として、今後どのような人材や組織づくりに力を入れていきますか?

当社は理念体系「KPPグループウェイ」において「自律的な人材の育成」をバリューの一つにうたっています。この言葉どおり、社員には自ら考え行動できる存在であってほしいと考えています。
当社にはもともと風通しのよい自由闊達な組織文化が根づいており、自律的な人材が育つ素地があります。変革を起こすためには他者に委ねるのではなく自ら考え、自らの意見を伝え、人に流されず自分が「価値がある」と信じることを行動で実現することが必要です。またそうした挑戦を盛り立てる人事制度の充実も必要です。
現在事業領域の拡大を目指す中で、クロスセルの実行およびグループシナジーの追求に向けた情報共有や新たな試みが人事評価につながるよう、人事制度の見直しにも取り組んでいます。さらに新規事業への挑戦を奨励する社内起業家プログラムも準備中です。これは社内公募で新規事業の立ち上げを奨励するもので、毎年2~3件に予算を付与し、3年間の成果を踏まえて本格的な事業化を判断します。
これまでも国際紙パルプ商事では紙製人工芝「OJO(オージョ)ペーパーターフ」の開発・拡販や、バイオマス発電プラントの稼働率向上を支援するシステム「BMecomo(ビーエムエコモ)」の開発・販売など、新規事業が立ち上がっています。社内起業家プログラムではこうした動きをグループ全体に広げ、さらに加速させていきます。
また2024年の創立100周年を機に創設した社内表彰制度「KPPグループアワード」を第4次中期経営計画期間も継続することとし、最終年度には各分野で顕著な貢献を果たした社員やチームを広く表彰する予定です。
こうした施策を通して自ら考え行動する人材を育成し、新たな挑戦を後押しする企業文化・組織風土をつくり、誰もが活躍できる組織を目指していきます。

最後に、株主還元や今後の成長に向けた姿勢についてお聞かせください。

2022年の持株会社体制への移行後、株主・投資家の皆さまには透明性の高い情報開示と誠実なコミュニケーションに努めてまいりました。
株主還元につきましては、2025年3月期より連結配当性向30%を目安とするとともに、DOE(連結株主資本配当率)3.0%を下限とする新たな配当方針へと移行いたしました。加えて、機動的な株主還元策の一環として自己株式の取得を進めるとともに、株主優待制度も導入し株主還元の一層の充実を図っております。
私たちが目指すのは、単なる規模の拡大ではありません。お客さまに対して高品質で付加価値の高い製品・サービス・ソリューションを提供し、健全な利益を生み出し続ける「強い会社」であることが重要だと考えています。
ステークホルダーの皆さまには、グローバルに成長を続けるKPPグループに今後もご期待いただければ幸いです。

                                  2025年10月24日