使い終わったら捨ててしまうだけのトイレットペーパーの「芯紙」。山田ゆかさんは、この誰もが気にも留めることなく廃棄してしまう「芯紙」に、エシカルな感性とていねいな手技を施すことでアート作品を生み出すアーティストです。無駄な装飾はせず、芯紙そのものの形状を生かした立体的な造形と光が創り出す美しい陰影が融合する山田さんの作品は、見る人々の心を惹きつけています。単に不用品をアートに変える「廃材アート」とは一線を画し、独自の価値観を作品を通して表現する山田さんの思いを伺うために、静岡県掛川市にあるアトリエを訪ねました。

山田 ゆか さん

トイレットペーパー芯リサイクルアーティスト

 

 

 

 

 

東京都出身。グラフィックデザイン、ウェブサイトを手掛けるデザイナーとしての活動と並行して、2009年に静岡県掛川市に移住したことを機に、トイレットペーパーの芯紙を使った創作活動を開始。2014年にマレーシアのペナン島で開催されたジョージタウンフェスティバルにて制作展示。以後、新宿コニカミノルタプラザ特別企画展「廻ルモノコト展」(2016年)、「かけがわ茶エンナーレ」(2017年)などで、個展や展示会を開催。2015年、アトリエの2Fにオリジナルブレンドティーが楽しめるカフェ「MUG TEA」をオープン。

https://yamadauca.com/

https://mugtea.com/cafe-mugtea/ MUG TEA

「感動」と「共感」を共有するなかで芯紙だから表現できるアートとしての価値を高めていきたい。

毎日の生活に欠かせない日用品のひとつであるトイレットペーパー。日本では長尺紙を巻き取った円筒型タイプが一般的で、日本家庭紙工業会の資料によると4人家族の場合で1か月に16ロール程度を消費しているそうです。そんなトイレットペーパーのボール紙でできた芯紙を使ってアート作品を創るのが、山田ゆかさんです。トイレットペーパーの芯紙は、保育現場での工作やペーパークラフトの材料に用いられることもありますが、山田さんの創るアート作品は次元が異なります。たくさんの芯紙をつなぎ合わせた幾何学的な模様はシンプルがゆえに奥深く、光を当てると見る角度によって陰影が変化する美しい作品が展覧会を訪れる人々を魅了しています。

 


「トイレットペーパーの芯って、実は奥深いんです」。そんな第一声に思わず口ごもる取材班に対して山田さんは言葉を続けます。「日本製の芯紙はJIS規格(日本産業規格)でその内径や長さを定めているので、サイズはほぼ同じです。でも、製品によって紙質や厚みも違うし、スパイラル状にすることで強度を出すなど機能的にも優れている。芯紙に消臭や芳香成分が塗布されたものなどもあり、さまざまな工夫が詰まっている日本が誇るべき文化だと思います」。

山田さんは作品を創作するにあたって、いくつかの制約を設けています。


①色を塗らない…芯紙の質感や色、印字などをそのまま使って表現する。
②ルールに沿って断裁する…そのままの形状で使用することを基本として、裁断する場合には再利用できるように、自ら決めたサイズで断裁する。
③ゴミを出さない…創作の過程で極力ゴミを出さない。

 

芯紙をつなぎあわせるコネクターには、リサイクルすることを前提としてゼムクリップを使用。そのほか、自然環境への配慮として天然素材を原料とする粘着テープを使用するなど、明確なコンセプトに沿って創作しているそうです。「思いつくままに切ったり貼ったりして作品を創っても、その先に何も生まれません。何でも安価で手に入るモノが溢れかえっている時代だからこそ、資源を浪費するのではなく再生することにこだわりたいんです」(山田さん)。

デザイナーとして活躍していた山田さんがトイレットペーパーの芯紙に着目することになったきっかけは、友人からアート作品の出展依頼を受けたことだったそうです。「素材を探しているときに、身近にあったトイレットペーパーの芯はどうかと思いつきました。それから作品の参考になるものはないかとインターネットで検索したんですけど、トイレットペーパーの芯を使ったリサイクルアートに関する情報は何も出てこなかったんです。誰もやったことのないことに可能性を見出して、自分で実際に取り組んだうえで答えを出すこと、身近にあるものを使って誰も思いつかない新しい価値を生み出すことにとてもワクワクしたんです」と当時を振り返ります。そこで山田さんが展示した作品は好評を博し、その場で次の個展開催が決定。前例のないエコアートとして多くのメディアに取り上げられ、またたく間に山田さんの創り出すアートが多くの方に知られることとなりました。

「トイレットペーパーの芯を知らない人はいませんよね?誰もが知っているものだからこそ、アートにするのが難しいんです。誰もやりたいと思わないし、やる価値がないと思われていることだからこそ価値があるんじゃないかと。与えられたものに満足するのではなく、みんなが気付いていない価値に気付き、試行錯誤しながらカタチにする。与えられるがままに生活するのではなく、自分が必要だと思うことを選ぶことに意味があると思うんです」と山田さんは話します。

自然光が差し込む山田さんのアトリエ
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自然光が差し込む山田さんのアトリエ
山田さんのアート活動に賛同する方々から提供されたトイレットペーパー芯紙の一部
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山田さんのアート活動に賛同する方々から提供されたトイレットペーパー芯紙の一部

山田さんの作品には、トイレットペーパーの芯紙が必要不可欠です。アトリエの一角には、折り畳まれた芯紙をぎっしりと詰めたティッシュペーパーの箱が山積みにされています。「これは私の作品に感動し共感してくれた方々が提供してくれたものです。私の作品は、リサイクルアートというコンセプトに賛同してくれる方々とともに創り上げる参加型アート。材料を集めることも創作の一部だし、展示会場で作品のパーツを一緒に創ることもアートワークなんです。この活動に参加した方々がそれぞれの感性で得た意識を共有し、継続に取り入れることが最も重要だと思っています。私がアートを続ける理由は、芯を集めてくれる人がいるから。アートを通じて誰かのために生きることが私の原動力だし、共感してくれる人が一人でもいるのなら、その人と共有できるアートを進化させていきたいと思っています」。山田さんにとって、アートは価値観を共有するためのツールであり、自らの価値観を形成する重要なファクターでもあるのです。

 

 

最後に今後の抱負について訊ねてみました。「ひとつは、私が活動している(静岡県)掛川市はアートが盛んな土地なので、地元の美術館や企業とのコラボレーションによって、地域の方々が気軽にアートに触れることのできる機会を創出すること。また、コロナ禍が長引いたことでここ数年、展示する機会が減ってしまったので、近いうちにアトリエギャラリーを解放して実際に作品を観ていただければと思っています(解放日は未定)」。山田さんは、アトリエの2階に、オリジナルのブレンドティーを販売・提供するカフェ”MUGTEA(マグティー)“を経営されています。カフェにも素敵な作品が常設されていますので、ホームページ、SNSにてご確認のうえ、訪れてみて下さい。