五輪女子マラソンで2度メダリストに輝いた有森裕子さんと、KPPグループホールディングスの会長兼CEO田辺 円によるスペシャル対談が実現。スポーツとビジネスというそれぞれの分野でリーダーシップを発揮してきた立場から、多国籍の人々と円滑に仕事をするためのコミュニケーション術、若いビジネスマンに向けたこれからの時代を生き抜くための提言などを伺いました。

有森 裕子 さん

 

 

 

岡山県岡山市出身。日本体育大学を卒業後、(株)リクルート入社。1992年バルセロナ五輪で銀メダルを獲得し日本の女子マラソンランナーとして初めてのメダリストとなる。1996年アトランタ五輪でも銅メダルを獲得。レース後に語った「初めて自分で自分をほめたいと思います」という言葉は、その年の流行語大賞に選ばれた。1988NPO法人ハート・オブ・ゴールド設立、代表理事就任。2007年にプロマラソンランナー引退。現在は、国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと活動的社会委員会委員、スペシャルオリンピックス日本理事長、日本陸上競技連盟副会長、大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長などの要職を務める。2010IOC女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。

有森さんは、オリンピックでは1992年のバルセロナ大会で銀、1996年のアトランタ大会で銅と、2大会連続でメダルを獲得するなど日本女子マラソン界の先駆者として輝かしい結果を残されました。田辺会長は有森さんについてどのような印象をお持ちですか?

田辺:もちろんテレビで応援していましたし、限界を超えて走り続ける姿にとても感動しました。バルセロナでのメダル獲得は、日本女子陸上競技界における久しぶりの快挙でしたよね?

有森さん:64年ぶりでした。

田辺:でも、個人的にはアトランタの方が印象深いですね。国民の期待が大きかったし、「自分で自分をほめたい」というゴール直後の言葉には日本中が感動しました。実際に走ってみて、どちらの大会が苦しかったですか?

有森さん:アトランタはアップダウンが多いコースだったのでより難しかったです。バルセロナは、終盤にあるモンジュイックの丘まで4キロくらい急な登り坂が続くのできつかったんですけど、高地トレーニングを積んできた成果が出せたと思います。

有森さん:天満屋さんに女子陸上競技部ができたのが1992年。私が(バルセロナで)メダルを獲ったことを受けて創設されたんです。田辺会長はスポーツにお詳しいんですね。何かスポーツをされていたんですか?

田辺:私は高校でラグビーに打ち込んでいました。花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)にも出場したんですよ。

有森さん:それはすごい!

田辺:余談ですが、2013年に高校ラグビーが近鉄花園ラグビー場で開催される50回目の記念として、50年前の決勝戦である「天理高校vs北見北斗高校」の試合が行われたんです。当時のメンバーを中心とするOBたちが出場したんですけど、私も1年かけて体をつくり直してプレーしたんです。テレビでも放送され、良い思い出になりました。

有森さん:年配の方がするスポーツでも、マラソンとラグビーとでは大きな違いがありますね。本当にすごいと思います。

昨年10月、「サステナブルファッションEXPO」に国際紙パルプ商事と王子ファイバーが共同出展した際、有森さんには紙糸繊維「OJO+(オージョ)」を紹介するイベントにご出演いただきました。王子ファイバーの白石社長とは以前からお知り合いだったそうですね。

有森さん:以前、「OJO+」の靴下をいただいたことがご縁のきっかけだったんですけど、履き心地が良いので時折使わせていただいていました。マラソンだと、細かい縫製の部分の硬さなど微妙な調整が必要なのでまだ試したことはありませんが、ウォーキングなどで試した感じだと足に馴染む印象を受けました。それに兄が製紙業界で働いていることもあって「OJO+」を知っていて、実際に愛用していると話していました。

田辺:展示会では「OJO+」を使った製品を数多く出展しましたが、何か気になるものはありましたか?

有森さん:まず、紙からこんなにさまざまな製品をつくることができることに驚きましたし、紙でできた衣服の着心地にとても興味を持ちました。経年によって肌触りがどのように変化していくのかも非常に気になりますね。

田辺:OJO+」の人工芝はいかがでしたか?

有森さん:本当にびっくりしました。スポーツの現場では人工芝のフィールドを使う機会が多いんですけど、とにかく暑いんですよ。子どもたち向けのプログラムで、人工芝のうえを裸足で歩いたり休ませたりしたいんですけど、暑すぎてどうにも無理なんです。その点「OJO+」の人工芝は熱がこもりにくいので安心だし、紙ならではの丸みを帯びた柔らかさがあるので、安心して子どもたちに使ってもらえる。とても画期的な製品だと思いました。

田辺:イベントだけでなく、私たちのブースにも結構長くいらっしゃったと聞きました。来場者もかなり多かったので、大変ではなかったですか?

有森さん:いえいえ、私自身が楽しくてはしゃいでいました(笑)。「OJO+」のジャケットや靴もかわいかったし、ジーンズもとても紙とは思えないクオリティに驚かされました。

田辺:興味を持っていただけたようで、うれしく思います。

設計図に沿って日々の仕事に取り組むことが目標達成につながる。

有森さんは中学から陸上競技を始め、ひたむきな努力によって数々の栄光を獲得されました。KPPグループをはじめさまざまな企業で働く若いビジネスマンに向けて、今後より大きな成果を上げるためのアドバイスがあればお願いします。

 

有森さん:一定期間すべてを競技に注ぎ込むマラソンと違って、仕事の場合は継続していくものですよね。それでも共通して大切なことは、自分の仕事にパッションを持って取り組めるかどうか。自分なりの思いや愛情を持って臨むことが大事なのかなと。ただ与えられた業務をこなすだけでなく、一つひとつの仕事に思いが込められているからこそ相手を引き付けるものになるのかなと思います。私たちがマラソンで使うモノでも、つくり手の思いがこもっていないものだと小さな綻びになって表れるんです。それに、私たちチームメイトが最後まで小出(義雄)監督に付いていくことができたのは、彼が誰よりもかけっこが好きだったから。かけっこが大好きで、その魅力について愛情を持って伝えようとしてくれたからこそ心から信頼できたし、安心して付いていくことができました。ジャンルは違いますが、思いや目標を持って一つひとつのことに取り組む姿勢は、同じように大切なことなんじゃないかと思います。

 

田辺:たしかに我々の仕事とマラソンには共通点があります。マラソンは42.195キロを走るうえであらかじめプランを考えると思います。上りや下りなどコースに合わせたラップタイムの組み方や、ライバルの出方に合わせた駆け引きなど、戦略や設計図をつくったうえでレースに臨むのではないでしょうか。その設計図を描かずに走り出してしまうと、足がつったり、給水がうまくいかずゴールすることができなかったりする。それは仕事でも同じことで、長期的な視点から目標を達成するまでの設計図を作成し、思いを持って今すべきことに取り組むことがとても大切だと思います。KPPホールディングスには全世界で約5400名が働いていますが、共通の設計図を見て、同じ価値観を持つことが重要だと考えています。

国際舞台では、「アグリー」ではなく「アンダースタンディング」が重要。

KPPグループホールディングスは45か国、147都市に拠点を構えるグローバル企業として、今後さらに世界を舞台に活躍する人材が求められます。有森さんはこれまで、国連の親善大使やIOC(国際オリンピック委員会)の委員など、さまざまな国際機関で要職を務められてきましたが、言語、文化、価値観の違いを乗り越えてコミュニケーションを図るために、どのようなことを意識していますか?

 

有森さん:日本人では苦手な人が多いですが、海外では自己アピールができないと活躍が難しいと思います。自分の考えがきちんとあり、さらに表現することができないとチャンスの機会が減ってしまいます。私が常に意識しているのは、相手の顔をしっかりと見て話すこと。そうすることでこちらの「伝えたい」という思いがしっかりと届き、相手にも「知りたい」という思いが生まれるんじゃないかと思っています。あとは、相手に「アグリー(同意)」を求めないことが重要です。価値観の異なる相手に同意を求めると、「そうじゃない」と感じた瞬間に亀裂が生じてしまいます。だからこそ、「アグリー」ではなく「アンダースタンディング(理解)」したい相手だと思ってもらうことを意識するようにしています。相手には相手の思いや歴史があるということを理解せず、一方的に押し付けるような態度で向き合っても、コミュニケーションは深まりません。自分の意見を無理に通そうとするのではなく、「伝えたい」という姿勢が大事なんじゃないかと思います。

 

田辺:有森さんの言う通り、自分で考えて行動する「マネジメント力」がないと、国際舞台での活躍は難しくなりますね。それに今、環境汚染が大きな社会問題になっていますが、私は若い人の「デジタル汚染」も懸念しています。デジタル技術の発達によってボタンひとつで簡単に答えを導けるようになりましたが、私は結論にいたるまでのプロセスやアプローチも非常に大事だと思っています。そのためにも若い人たちには是非、無駄なことをたくさん経験してほしいですね。その中で自分の得意分野を発見し磨いていくことが、この部分は負けないという自信になるはずですから。

貴重なアドバイスをありがとうございます。最後に、有森さんの今後の抱負をお聞かせください。

有森さん:スポーツは人の心を大きく動かすもの。だからこそいろいろなことにコミットすることで、社会全体を動かす要素になりうるものだと思っています。これからもスポーツを通して、社会全体の役に立てる活動を続けていくつもりです。「OJO+」をきっかけに今回ご縁をいただいた、KPPグループホールディングスさんの展開にも注目していきたいと思っています。