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京都府京都市生まれ。京都造形芸術大学卒業。

大学在学中から和紙の世界に魅せられ、卒業後、福井県の越前和紙工房で手漉き和紙づくりに従事。
その後、染織を学ぶために沖縄に移住。

和紙と織りの両方を深めたいとの思いから桜井さんに師事、茨城県に移住し紙布の制作を行っている。

 

 

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 紙布とは、その名のとおり「紙」でつくられた「布」のこと。細く裁断した和紙を撚って紙糸にし、それを織ることで生地にします。紙布づくりは各地の和紙生産地で副業的に行われていましたが、明治時代以後は綿や絹、ウールなどの天然繊維、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維の普及によって衰退し、現在では一部の地域で小規模に生産されるのみとなりました。

「江戸時代中期まで、当時の庶民にとって木綿は高価なものだったので、実用着には主に麻が使用されていたそうです。でも、麻で織った衣服は堅く、防寒性に乏しかったため、身近にあった和紙が代用されました。当時は不要になった大福帳などを細く切って糸にしていたので、文字の墨が文様になったものが残っています」。

そう話すのは、紙布作家として活動する妹尾直子さん。紙布の第一人者として活動を続ける桜井貞子さんに師事し、紙布づくりのすべてを学んだという妹尾さんは、西ノ内和紙の産地として知られる茨城県常陸大宮市に移住。自然の光と風を呼び込む伝統的な日本家屋に工房を構え、独自の感性を取り入れた紙布づくりを続けています。

 

 

1.折る

すべての繊維がしっかりと絡んだ楮100%の良
質な和紙を4枚1組にし、上部1~1.5センチの
折り返しをつけて屏風畳みにする。

2.切る

特製の定規を当て、2x3版(60×90センチ)の
和紙に2ミリ幅の切り込みを入れる。この際、折り返し部分は切らずに残しておく。

3.湿らせる

切り込みを入れた紙を濡れたタオルで挟み、6~7時間湿らせる。天候や湿度に合わせて、霧吹きなどで水分を調整する。

4.揉む

平たい石の上で素早く転がしながら紙を揉む。
この作業によって、2ミリ幅の紙1本1本が糸の
ように丸い紐状になる。

5.績む

切らずに残しておいた折り返し部分をちぎり、つなぎ目を手で撚りながら細くて長い1本の紙糸にしていく。

6.撚る

紙糸を糸車にかけて撚り、煮出してカットした篠竹に巻きとる。紙糸は必要に応じて草木染めしたのち、織り機で織って完成。

 

 

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 広間に並べられた妹尾さんの紙布作品を見せていただくと、紙でできているとは思えない緻密で美しい仕上がりに驚きます。それでいて和紙特有の温かみと風合い、上品な光沢があり、手で触れた感触は柔らかく、滑らかな心地よさがあります。

 

「今は、着物の帯をつくるご依頼が多いですね。紙布の帯は、紙が身体から出る湿気を吸ってくれるので崩れにくく、締め心地も軽いと評判です。帯のほかに、長襦袢に付ける白地の半襟など、着物をよく着る方からのご注文が多いですが、シャツなど洋服も紙布でつくっています。経糸緯糸ともに紙の糸でつくる諸紙布だけでなく、緯糸は紙ですが経糸に絹や麻、木綿糸を使うなど、用途や目的によって経糸を選んでいます」と妹尾さん。

つくる衣服に最適な和紙選びから、紙糸づくり、草木染め、はた織りまで、すべての工程を自らの手で行うため、経糸緯糸ともに紙でつくる作品は、約2カ月から3カ月もの時間を要するそうです。

 

 

経糸に絹、緯糸に紙を使った縮面地。紙布ならではの肌触りの良さを実感できる。

経糸・緯糸ともに紙布を使用した諸紙布の帯作品。赤は「アカネ」、黄色は「エンジュ」、ブルーは「インド藍」で染色した。

 

京都造形芸術大学で油絵を専攻していた妹尾さんは、授業の一環として取り組んだキャンバスづくりや木版画の実習をきっかけに、日本の風土で生まれた手仕事の道具や材料に興味を持つようになりました。卒業後は、和紙の産地をまわり、日本を代表する越前和紙の工房に就職。職人として約4年間、手漉き和紙を学んだのち沖縄に渡り、約6年半の月日をかけて首里織など織物の技法を習得しました。

「沖縄の工房では、蚕の糸を取るところから染織まで、ひとりが一貫して作業させていただきました。知りたいと思うことをがむしゃらに学んできて、今後の方向性を考えていた時に雑誌で紹介されている桜井先生の紙布を見て、その美しさに衝撃を受けました」。
 

 

江戸小紋師・菊池宏美さんに型を置いてもらった絹紙布でつくった作品。

桜井貞子さんが復元した技法をもとに、妹尾さんが制作した着物(仮仕立て)。

 

桜井貞子さんは、仙台藩白石(現在の宮城県白石市)で生産されていた紙布を復元するために、わずかに残る文献から技法を研究、90才を過ぎた今なお、精力的に創作活動を続ける大家です。桜井さんの作品に魅せられた妹尾さんは、知り合いを通じてすぐにコンタクトを取り、桜井さんの住む茨城県へ移住。

「責任を取れないから」と断る桜井さんの元に通い続け、半ば押しかけるかたちで紙布づくりを一から学びました。

「桜井先生が何十年もかかってたどり着いた答えを、私はたかだか2、3年で教えていただきました。だからこそ、つくり続ける時間の中で、たくさん咀嚼してきちんと消化しないといけないと思っています。さまざまな植物の可能性、繊維素材の研究など、今まで学んだことを振り返り、整理しながら改めて勉強したいです」と話します。


 尊敬する師と同様、常に新しいことへの挑戦を続ける妹尾さんは、型染め職人とのコラボで、白地の紙布に伊勢型紙のデザインを合わせる作品づくりにも着手しています。優れた伝統を基礎として今日の生活に即したものへと進化させる試みが、紙布の新たな展開へとつながるはずです。

 

 

 

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